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義務感から学ばせない カナダの学校

by Mariko Benson

ここカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州では、コロナの影響の下、地元の小学校が、子どもたちに在宅で授業を受けるオプションを与えてくれています。今回は、ソルト・スプリング島、フィーニックス小学校(オンラインクラス)から、自由な学びのアイディアをお届けします!

今のように社会が不安定だからこそ、学校に行くか行かないかは、これまで以上に個人の自由であるべき。普段からホームスクールを義務教育の選択肢としているカナダでは、コロナ後も当然のことながら、さらにもう一歩進んだオプションを導入。地元の学校に籍を入れつつも、学区内にある学校のひとつが、いわば代表として、オンラインクラスを提供してくれています。

”学校に行くか行かないかは、
今まで以上に個人の自由であるべき”

もし気が変わって、通常の学校に戻りたければ、新しい学期を待って、いつでも戻ることが可能。将来的には、子どもの教育をホームスクール一本にしぼるほどの自信はないけれど、今はコロナが不安で子どもを学校には通わせたくない、という親にとっては、嬉しいニュースです。ホームスクールか否かは、生きるか死ぬかみたいな(私のイメージだけか?)選択でなくてよいのです。

うちの子どもたちの場合は、同じ学区内で、でも隣の島(ソルト・スプリング島)にある、フィーニックス小学校がオンラインクラスの担当に。ペンダー島とソルト・スプリング島に住む子どもたちのうち、在宅で学ぶことを選んだ子どもたちが、ブロンウィン・マックミリン先生とともに、オンラインで学んでいます。

クラスは、幼稚園から小学2年生まで混合のミノウ(小魚)クラスと、小学3-5年までのサーモン(鮭)クラス。西海岸ならではのクラス名からもわかるように、とてもリラックスした雰囲気。一クラスは生徒15人ぐらいです。

”通常の学校に戻りたければ、新しい学期を待って、いつでも戻ることが可能”

新学期が始まってから、まだ1か月半しかたっていないのですが、先生自身がアーティストでもあるブランウィン先生の授業には、おもしろいアイディアがいっぱい!子どもたちを巻き込んだ授業の中から、私なりの視点で、いくつか具体例を紹介してみます。

1.先生との関係は、思いやり+個人的

午前中は、毎日(ガルフ諸島の学校は、月曜日から木曜日の週4日のみ)、クラスメートとともに、ズームミーティング。先生が、ひとり一人に”Hi!How are you doing?”と挨拶して、みんなの気分を確かめるところから始まります。

子どもたちの答えは、私たちが昔、英語の授業で学んだような、”I’m fine, thank you, and you?”のような典型的な答えではありません。

「今日の気分を色で表すとどんな感じ?」、「天気でいうと、晴れ、曇り、雨のどれ?」、「1から10だと昨日嫌なことがあったから3ぐらいかな」、「お兄ちゃんとケンカした」、「乗馬に行けたから、ハッピー」など。自分の感情を見つめ、心の中に起きていることをシェアするきっかけとします。

授業の中で、形式や礼儀に振り回されるのではなく、でも、表しやすいツールを用い、思いやりをもって、ごく個人的な感情を共有することは、子どもたちが気づいている以上に、とても貴重な時間に思えます。

時間外でも、先生とはいつでも、グーグルハングアウトや、メールなどでコミュニケーションとることができます。娘が体調不良で授業に参加できなかった際には、授業の中で読んだ絵本をわざわざビデオで撮影してメールで送ってくれ、先生の心遣いに感動しました。

”授業の中で個々の感情を共有することは、

子どもたちが気づいている以上に

とても貴重な時間”

2.いやおうなしに、子どもたちを野外に行かせる宿題

雨が降っていても、なんのその。外に行かずに宿題は終わりません(笑)。

野外でABC探しをする宿題や、自然観察して、先住民(ファーストネイション)の使っていた、季節感のあるカレンダー(暦)を、自分バージョンで作る課題など。

W’SANEC Calendar(ワサニックカレンダー)。西海岸のサニッチ地域に住んでいたファーストネイション(先住民)が使っていた暦。太暦をベースとしたもので、月の満ち欠けによって1年が13か月に分かれている。

出典:Thirteen Moon Calendar of key W̱SÁNEĆ Indigenous foods (painting by Briony Penn) 

https://gulfislandsfoodco-op.org より

  • 自分版のワサニックカレンダー作り

上記のカレンダーを参考に、長男が作った暦。

通常のカレンダーでいうと11月頃で、この時期は”月が葉っぱを揺らす”月だという(つまり秋冬の風が強い時期)。牡蠣やボーケルプ(海藻)などの収穫の時期でもある。ところどころに書かれた単語は、先住民の言葉。

  • Outdoor Alphabet (野外で探すアルファベット)ゲーム

「A」の例。アルファベットを学んでいる、小学校低学年向けの宿題。

野外に行って、自然の中で自分が与えられたアルファベットを探し、写真をとってクラスで発表します。

どうしても見つけられなかったら、自然の中で見つけた素材を使ったネイチャーアートで、アルファベットを作ります。

3.生徒たちが問題を作るから、正しさよりも、過程を楽しめる

授業で自分の答えが合っているのか、心配になった経験がありませんか?

答えが合っているかどうかを心配せずに、または、答えがあっても絶対的なものでなければ、人とは違った考えをもつことや、失敗することに対して恐れない子どもたちを育てることができるような気がします。

たとえば、Which one does not belong?”(属さないのはどれか)というゲーム。

4つのセクションに描かれた絵の中で、ひとつだけ属さないのはどれかを当てる、仲間はずれ探しゲームです。

このゲームでおもしろかったのは、先生がゲームの一例を見せた後、次の日までに、子どもたちが問題を作ってくること。

与えられた質問にただ答えるのではなく、自分で”問題”を考えなければならないので、子どもたちの想像/創造力を促します。

次の日、子どもたちが質問を持ち寄ると、クラス全体はクイズ番組のような盛り上がり。楽しい雰囲気でみんなが答えを当てっこし合いました。

  • Which one does not belong?”(属さないのはどれか)ゲーム

長男の作った問題の例。彼の考えた答えは、「タコだけが骨がないからタコが仲間外れ」。ヒトデの仲間がもつ骨片(こっぺん)と呼ばれる小さな骨は、骨とみなすかどうかで、白熱したディスカッションのきっかけにも。

下記の写真は、次男が作った問題。みんなのハイレベルな予測を覆し、とてもシンプルな答え。…でも、それが個性だから、大丈夫♪

同様のゲームで、次男が作った問題。クラスの子どもたちは、様々な推測をします。「茶色いのだけが死んでいるから仲間はずれ?」「左から3番目の葉っぱが一番短いから仲間外れ?」「ううん、それだけがモミで、ほかは杉だから、モミが答えかな?」

彼の決めた答えはというと、…一番右の濃い緑の杉の葉っぱが仲間外れ。理由は、ひとつだけ左に傾いているからでした。チャンチャン。

子どもたちが自由に、自分の発想から質問をつくれる環境にいて、それをほかの子どもたちと一緒に楽しくシェアでき、さらには答えを当て合えるという楽しい学びの過程を体験できることの方が、いわゆる正しい答えを暗記することよりも、ずっと意味のあることだと思います。

授業の中では、仲間はずれ探しゲームのほかにも、言葉遊びクイズ、クロスワードゲーム、動物当てごっこなど、いくつものゲームを通した楽しくて豊かな学びは、授業の中で毎日のように実践されています。

”楽しい学びの過程を体験できることの方が、いわゆる正しい答えを暗記することよりも、ずっと意味のあること”

4.実用的な算数は、スーパーの広告が教材

Real life math(リアル・ライフ・マス)は、実生活の中の数学という意味。子どもたちは、エスティメーション(estimation – 見積り)から始めます。考えてみると、私たちの生活の中では、距離、量、重さ、金額など、見積もらないといけないこと、たくさんありますよね。教科書上で、架空のものを数えるのではなくて、算数は、実生活の中にあるからです。

  • Estimation Jar(ビンの中身にあるものの数を予想する)ゲーム

子どもたちがビンの中に、ビー玉や乾燥した豆やお菓子など、入れたいものをいれてきて、お互いのビンにいくつか入っているのかを当て合います。

長さのエスティメーションゲームでは、まずは部屋の大きさを何歩か測り、次に、部屋の大きさと相対して、家の車道の長さを予想します。外に出て、自分の予想(エスティメーション)と実際の長さがどれだけ近かったかを確認します。

そこから、自分の一歩の長さを測り、掛け算して合計距離を出すという算数にも発展できます。

  • Making a meal for your family(家族のための夕飯づくり)

中学年のエスティメーション(見積り)の練習は、金銭的な見積りをバーチャルに体験。たとえば、地元のスーパーマーケットのチラシを見て、グループで夕食の献立を決めます。メニュー(炭水化物、野菜、デザート、ドリンクが必要)が決まったら、材料、必要な量を計算。予算の中でやりくりする方法を話し合います。

  • Real life math: Vacation estimation(旅行プランづくり)

旅行に行くとしたら、どこに行きたい?何人で?飛行機代は?ホテル/キャンプ代は?食費は?

うちの子は、コスタリカへエコツアー行く設定で、旅費を計算。わー、結構高いね、しばらくお金貯めないと無理そうだけど、現実を知るのもいいことかも(汗)。

”教科書上で架空のものを数えるのではなく、

算数は実生活の中にある”

5.発明心は、試行錯誤から

「子どもは、いつか、習うべきものは習うから大丈夫。」とは、ホームスクールの大先輩のママ友が、自分で教えていると、ちゃんとその学年で習うべきカリキュラムを網羅できているのかが心配になると言っていた私に、教えてくれたこと。

言われてみると、子どもたちはみんな、個性や学びの方法や速度も違うのに、この学年だったらこれを習わなきゃだめというのは不自然なこと。

だから、下記のようなマシーンづくりはおもしろいプロジェクト。教科書の順番で、「この章では、ニュートンの法則を学びます」ではなく、自分がやりたいという動作をどのようなマシーンで実現することができるかというエクササイズは、問題解決能力、想像力と創造性の発達を促します。

  • Rube Goldberg machine(ルーブ・ゴールドバーグというアメリカの漫画家が作った、実用的でない、連鎖的なからくりマシーンのこと)作り

自分の決めた単純な動作を、からくりマシーンにさせることが課題。長男の場合、「コンピューターのスイッチをつける」という動作を、ビー玉がドミノを倒し、穴に落ちて、橋を渡り、最終的には本を支えている棒を倒して、本の重みでスイッチがつくという流れを達成!スイッチが無事入ったときには、本当に嬉しくて、みんなで(特に私が)叫んだ。

決められた方程式を先に学ぶのではなく、やりたいことを実現するためには、何をするべきか。試行錯誤の過程の中で、自然と物理の仕組みを実感しながら学んでいくのがポイントです。

  • Engineering Challenge: Freestanding chair(エンジニアリングチャレンジ「紙で作る椅子」)

低学年は、工作を通してエンジニア(工学)を学ぶ。ルールはハサミを使わず、材料は紙とテープのみで、自分のお気に入りのテディベアが座れる椅子を作る。どんなデザインがいいか、足は何本必要で、どんな形にしたら一番強いか、などを話し合います。

”やりたいことを実現するために、何をするべきか。試行錯誤の過程の中で、自然と物理の仕組みを実感”

6.学びは自分の興味から、という原点に戻る

学校の作文の時間に、何を書いてよいかわからなくて、空欄の400字詰め原稿用紙を眺めたのは遠い昔のこと?・・・。

カナダで子どもたちの作文やレポートを見ると、なんかもっと自由だなという印象を受けます。普段から自分の意見を表すことに慣れているということもあるのかもしれませんが、ソルトスプリングの先生だけでなく、地元ペンダー島の小学校の先生たちも、「子どもが〇〇の作文の宿題で苦労しているみたい」というと、「だったら、自分の好きなテーマを書けばいいですよ」と言ってくれて、びっくりしました。

えっ、自分で勝手に作文のテーマ変えてしまっていいの?

子どもが書きたくないときに、書きたくないことを強制的に書かせると、書くこと自体を嫌ってしまう恐れがあるからだそうです。

作文の時間の目的は、当然ながら、子どもたちに文章の書き方を教えることであって、作文を早く終わらせることではないからです。

受験準備とか、みんなが勉強しているからとか、責任や義務感からではなく、ただ楽しく学んで欲しいという意図が伝わってきます。

  • Create your own personal Newspaper(自分だけの新聞づくり)

新聞には、新聞名、ロゴ、自分が書いた記事ひとつ、タイトル、広告、一部売りの価格を含む、という課題。

”責任や義務感からではなく、ただ楽しく学んで欲しい”

このほか、サイエンスフィクションのストーリー・ライティング(不思議で、主人公の正体も不明なお話しの設定ができていて、そこからの展開を子どもたちが自由に発展させて書く)ワークショップで、ひとそれぞれの結末を決めたり、古代エジプトのミイラ作り調査レポートなども気持ち悪くて(笑)、おもしろかったようです。

7.教育に、社会性をもたせる

こちらでは、みんなプレゼンテーション(発表)がうまいです。自分の意見を堂々と、明確にほかの人に伝えるスキルというのは、やはり小さい頃からの訓練に違いないのでしょう。

下記は、動物の適応能力をテーマにポッドキャストを作るという課題で、Coastal Wolf(海岸に住むオオカミ)をテーマに長男が作ったもの。よかったら、聞いてみてください。

  • Animal Adaptations(動物の環境適応)をテーマに、5分以内のポッドキャストを作るという課題。コースタル・ウルフ(海辺のオオカミ)について、長男が調べて作った、ポッドキャストの例です。

せっかくなので、彼のポッドキャストの内容を要約すると、

  • カナダ西海岸に棲む、コースタル・ウルフ(海辺のオオカミ)は、内陸に住む通常のオオカミとDNA的にも違う。海岸という環境に適応した、オオカミの亜種で、食べているものの90%がシーフード。
  • ブリティッシュ・コロンビア州が行っているオオカミ絶滅政策は、政府がオオカミ猟を促すことで、減少しつつあるカリブー(トナカイ)の数を減らさないことが目的だと言っているが、特にコースタル・ウルフは、カリブーではなく、魚の卵や、カニやフジツボなどの甲殻類、サケ、アシカ、海岸に流れ着いたクジラの肉などを主に食べているので、彼らを殺すのは間違い。
  • 現在まで、政府の予算およそ2.2百万ドルが使われ、1000匹のオオカミが殺されている。ヘリコプターからオオカミを銃で撃ち、半殺しの状態のまま残すケースもあり、知性が高く、仲間意識も高いといわれるオオカミの群れに、大変なインパクトを与えていると言われている。

実は、このポッドキャストをきっかけに、クラスみんなで、BC州の環境大臣(Ministry of Forests, Lands, Natural Resource Operations and Rural Development)宛てに、ブリティッシュ・コロンビア州が行うオオカミ絶滅政策に反対する手紙を書こうということになりました。

この問題に関しては、環境団体がブリティッシュ・コロンビア州政府を訴えるなどの運動が起きてはいますが(興味のある方は、パシフィックワイルドという環境団体の「ブリティッシュコロンビア州のオオカミを救え」の英語ページをご一読ください)、子どもたちが声をあげることで、政府の方針が変わることがあるかもしれません。

私が驚いたのは、このような政治的にも賛否両論あるかもしれないテーマについて、学校側が協力するどころか、応援してくれているところです。”中立”という言葉の下、特に学校という建物の中と外がつながりにくく、自分の意見を表しにくい、日本の社会。…

”政治的にも賛否両論あるかもしれないテーマについて、学校側が協力するどころか、応援してくれる”

政治が教育をコントロールするのではなく、教育現場を政治から完全に独立させることで、子どもたちの学びは、より自由奔放なものになることでしょう。

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3 コメント

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西川武彦 2020-11-03 - 7:56 am

こういう世界があるのだと83歳にして知りました。日本のマスコミのどこか(新聞など)と連携して日本でも報じたいものですね。

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Mariko Benson
Mariko Benson 2020-11-05 - 7:48 pm

西川さん、コメントありがとうございます!メディアで知っている方がいらっしゃれば、宣伝したいので、紹介してください(笑)。カナダには日本のような受験へのプレッシャーがないから、そんなに自由なことできるんでしょと言われてしまえばそれまでですが、子どもたちが学ぶのは、自分で考えられる大人を作るための準備だという根本の思想がないと、教育も子どもも、また子どもたちが将来的には支えていかなくてはならない社会も、どんどん弱くなっていくのみだと思いますし、危機感を感じます。・・・それを変えるためにも、できることはしていきたいです。

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川本陽子 2020-11-07 - 1:58 pm

大きな国。広大な土地に伸びやかに育つ子供達の姿を教えて頂き羨ましくカナタの自然の中での暮らしは豊かで素晴らしいと思います❗️これからの時代に立ち向かう子供達の本質的な力強さを備える為にも自然界とのパワーを感じるまた学び取る能力を持ち続けて欲しいと願っています。いまのところ出来る事は日本の中の教育システムもありますが子供達の個性的な発想ん育てていかなければならないと思います。またいつか孫を連れてカナダ🇨🇦を訪問させて頂きたいです。

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