以前ソルト・スプリング島の農場に住んでいたときに、出来すぎてしまった野菜をどうやって保存しようかと思い悩んで、行き着いた先が、野菜を塩水の中で発酵させることでした。
容器の中に、いい野菜と、いい塩と、いい水さえあれば、特別な保存食を作るための器具や、高価なオーガニックのお酢などの材料を加えることなしにできてしまう、楽ちんの発酵野菜。市販の漬け物に使われている化学調味料、保存料、着色料なしで、保存がきき、安上がりで、でも、深みのある酸味がなんともいえない、とってもおいしい簡単漬け物の作り方の紹介です。
カナダで発酵文化のリーダーとして著名な本を何冊も出しているサンダー・キャッツさんの本(日本語版については、ソトコト記事『サンダー・キャッツの発酵教室 』ー「独学の発酵オタク」による発酵世界への誘い参照)によると、この手法は、ザワークラウトとキムチをかけ合わせたもので、”クラウト・チー”という部類に入るとか(キャッツさんの造語)。
こちらで、通常ピクルスというと、お酢などの、予め発酵させた調味料の酸を加えることによって野菜などを保存させるものの総称で、まったく発酵させていないものでもピクルスと呼ぶことがよくあります。だから、ザワークラウトやキムチのように自然発酵させたものの総称として、クラウト・チーという、ピクルスとは違う名前をつけたのですね。
さらに、通常のピクルスでは、加熱によっていわゆる殺菌をすることも多いので、微生物を使うというよりは、雑菌を死滅させることで野菜を保存する方法といえます(現代的な、消毒して綺麗にすればするほどいいみたいな考え方が強いような印象)。
一方で、私流のクラウト・チーの方法では、乳酸菌を始めとした微生物の力を借りての漬け物なので、殺菌や加熱などの工程は必要なし。材料が良質でありさえすれば、誰でもすぐに作れてしまいます!ぬか漬けは美味しいけれど、ぬか床をもつほどの心の準備ができていないわという人にはおすすめ。
あまりにも簡単にできるので、カルチャーショック(カルチャー【culture】とは、英語で〔微生物などを〕培養するという意味もあるので、しゃれてみました)、間違いなし!
材料
- ビンなどのふた付き容器
- 野菜(有機野菜、自然栽培が好ましい。生で食べられる野菜なら、ほとんど、どんな野菜でもOK)
- 塩(精製された塩ではなく、自然塩が好ましい)
- 水(塩素などを含んでいない、浄水された水が好ましい)
- (お好みで)ニンニク、ショウガ、玉ねぎ、唐辛子、お好みのハーブなど
作り方
- メイソンジャーなど、クラウト・チーを保存したいふた付きの容器を用意し、洗います。
- 漬け物にしたい野菜を入るだけ詰めます。
- お好みのスパイス(玉ねぎ、ショウガ、ニンニク、唐辛子など)を野菜の隙間に詰めます。
- 野菜の入った容器を、デジタルスケールの上にのせ、ゼロ(風袋重量)にします。
- 水の量を量りつつ、野菜がすべて水の中になるだけ水を入れます。
- 水の重量の*3-5%にあたる塩を水の中にいれます。
ポイント:写真のようなビンのサイズだと、野菜が浸かるだけの水の量は200gほどになり、それに対し、塩の量は200gの5%=10gほどになります。写真のようなビンサイズですと、大さじ1杯ぐらいの塩の量が目安。はかりがない場合には、味を見て、ちょっとしょっぱすぎるかなぐらいの量だと、発酵が進むにつれてちょうどよい味わいになります。
*今回の作り方では、野菜を瓶に入れた後に、水の量のみを測って入れているため、3-5%の割合ですが、最終的には材料すべての重量に対し、3%ぐらいの塩分になるのが目安です。たとえば、キャベツで作るザワークラウトの場合、野菜を揉むことでキャベツの中にある水分を引き出し、あとで水を足すことはないので、キャベツの重さに対し、3%の塩を入れるだけでよいという計算になります。
- フタをして、一日待ちます。フタはしますが、きつく締めすぎないことで、爆発?を防げます(多少塩水が漏れることはあります)。2日目からは、半日か一日ごとに、ガス抜きをします。発酵が進むと、水があふれてくる場合があるので、流しの上でフタをあけるのをおすすめします。
ポイント:フタをきつく締めすぎると、発酵の過程で発生した二酸化炭素が出口を見つけられず、ビンを割ってしまうこともあるので、ご注意ください。
- 3日ほどして、発酵が落ち着いてきたら、収納する場所(冷蔵庫の中にいれる必要はありませんが、冷暗所、15℃ぐらいが理想的)に移します。1か月後ぐらいが食べ頃ですが、1年以上保存できます。野菜の種類や、保存温度、塩の量などにより、発酵の進み方が変わりますが、基本的に発酵時間が長いほど、野菜は分解が進み、やわらかくなります。野菜の歯ごたえを楽しみたい場合は、冷蔵庫に入れるなどして、発酵を遅らせてください。
ポイント:自然発酵(乳酸発酵)の基本は、塩分が充分に高いこと、そしてできるだけ空気にふれないこと。カビなどの菌は、好気性なので、空気にふれる量が多いと、カビの発生は促され、触れる空気が少ないほど、カビが生えるリスクは減ります。と言っても、カビが生えてしまった場合は、スプーンでカビの部分をすくいとれば、下の部分は、安全に食べられます(カビは見えないところに菌糸が広がっているのだから、食べない方がいいとよく言われますが、個人的な経験、または前記のサンダー・キャッツ氏の著書においても、カビを恐れることはないと書かれており、カビの色が白い限りは、害はなく、容器の中すべての野菜を捨てることはないとされています。といっても、食べる部分がカビ臭かったり、カビによって野菜がどろどろとしてしまった場合などには、もちろん食べない方がいいので、自己責任の上で、お願いいたします)。
コツ・ポイント
上記の写真で、ラディッシュの上に置いてあるのは、ブドウの葉です。キャベツの葉など、青菜を瓶の上の方に入れることで、野菜がしっかりと水に浸かるようにすると、カビを防ぐ効果があります。