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カナダの原生林がなくなる日

by Mariko Benson

どんな観光案内をみても、”自然豊かな美しい州”と謳うカナダのブリティッシュ・コロンビア州。ところが実際には、なんと、毎日、サッカー場500個分の原生林が伐採されているのです(シエラクラブBC報告書による)。

特に今、バンクーバー島ポートレンフルー北東部に位置するフェアリークリークでは、製材・山林事業大手のティールジョーンズグループによって、この地域で唯一残された原生林が皆伐されようとしており、反対運動のため林道を封鎖する市民たちが、次々に逮捕されているという非常事態が起きています。

※注)上記写真は、Lorna Beecroftさんの フェイスブックからの引用。フェアリークリークで伐られた材木の写真かどうかは不明ですが、同バンクーバー島南部で撮られたもの。サイズ的には、原生林で見られるような大木のサイズ。詳しくはニュース記事参考。

フェアリークリーク(Fairy Creek、直訳すると”妖精の小川” (グーグルマップへのリンク))は、樹齢1800~2000年以上の大木とともに、生物多様性を支える貴重な水源地である流域地帯。ファーストネイション(カナダの原住民)のパチダット・テリトリー(Pacheedaht territory)の中にあります。

貴重な原生林の皆伐に反対する市民らは、皆伐を防ぐ最後の手段として、林道をブロック。しかし企業側が裁判に勝ち、連日、RCMP(カナダの国家警察にあたる)が抗議者たちを人道的でない方法で逮捕したり、メディアが入るのを拒んだりしています。逮捕数は、2021年5月27日現在で、133名にのぼり、大きなニュースとなっています。

ここで私の質問。

1.なぜ、残り少ない原生林が伐られなければならないのか

今では、珍しいものとなってしまった、イエローシーダー(Cupressus nootkatensis)の大木や、ウェスタンヘムロック(western hemlocks)と呼ばれる米ツガの大木らが、伐採の危機に直面しています。

空高くそびえたつ大木、威厳のある、生物多様性を支える原生林。巨木の代表格イエローシーダーは、大きいものでは、直径2.9メートルほどあるものもあり、樹齢1800~2000年以上と推定されています。

写真は、The Ancient Forest Alliance (AFA)から引用。伐採の危機にある、フェアリー・クリークの巨木イエローシーダー。

そんな巨木たちを、なぜ、伐らなければならないのか?

そもそも、州内の森林の管理の役割を担うのは、国ではなく、ブリティッシュ・コロンビア州政府。

ブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府の広報を読んでいる限り、自然豊かなブリティッシュ・コロンビア州から、原生林が消失の危機に直面していようとは、想像もつきません。

州のウェブサイトには、”持続可能な森林管理”という謳い文句がいたるところに散らばされ(ブリティッシュコロンビア州の投資と貿易)、州内には、約1370万ヘクタールの原生林が残されており、すべての森林のうち23%が原生林である、とされています。

以下、原文抜粋(州政府のページ 英語)。
There are about 13.7 million hectares of oldgrowth forest in B.C. Ten million hectares of these old-growth forests are currently protected or not economical to harvest. Old-growth forests make up about 23% of B.C.’s forested areas.

でも、ちょっと待って、英語で読み落としそうになったけど、「(1370万ヘクタールのうち)1000万ヘクタールは、現在、保全されているか、または林業が”経済的には伐採が採算に合わない”地域(意訳)」とされています。

この、”採算が合わない地域”には、標高が高すぎたり、岩石からなっていたり、亜高山地帯など、木材の伐採が不可能な場所を含んでいて、水の保水機能をもつ、雨が多くて木々が大きく成長できる原生林は含んでいません。

保全地域を計算するときに、(特に守っているというわけでもないのに)伐採しても採算が合わない地域も勘定に入れてしまうから、実際の統計との格差が大きく出てしまうのです。ほかにも、政府の統計が、たとえば過去に所有が私有地から政府に移った原生林の伐採面積を、都合よく”省略”するなど、統計の誤差が見られることが指摘されています(詳しくは、エイシェントフォレストアライアンスのQ&Aページを参照)。

一方、2020年に生態学者たちが行った調査(B.C.’s Old Growth Forest: A Last Stand for Biodiversity)によると、

  • 州の森林に残された原生林(=巨木を支えることができる力をもった森林は、3%のみ(※政府のいう23%に対し)
  • 原生林の広さは、3万5千ヘクタールのみ(※政府のいう1370万ヘクタールに対し)

調査方法によって、少の誤差には目をつぶるとしても、政府の言う23%という数字を信じて安心するよりは、ブリティッシュ・コロンビア州にほんの少しだけ残された原生林の、生存の危機を心配した方がよさそうです。

ところで、ここで明確にしたいのは、抗議者が反対しているのは、木を伐ることや林業そのものではなく、皆伐(clearcutting)です。皆伐は、生態系を壊し、林業さえも長期的にはダメにしています。皆伐ではなく、択伐が必要なのです。

原生林を守ることは、ロガー(きこり)の仕事をなくすことではない。
原生林を守って、みんなにとっての明るい未来を築いていこうというメッセージ。
フェアリークリーク・ブロッケード(@Fairy Creek Blockade) フェイスブックより

ではここで、今回の皆伐にまつわる背景を時系列で振り返ってみます。

ブリティッシュ・コロンビア州政府は2020年4月、減っていく原生林と生態系への危機感のため、報告書(A NEW FUTURE FOR OLD FORESTS – A Strategic Review of How British Columbia Manages for Old Forests Within its Ancient Ecosystems )を発表。原生林保全に向け、警鐘を鳴らしました。

2020年10月、BC州政府の解散総選挙では、上記報告書を鑑みた、原生林の保全を公約(29ページ)として掲げた、ジョン・ホーガン氏率いるカナダの新民主党(NDP)が、過半数超えの当選。

そんな中、2020年8月、フェアリークリークでは、伐採のライセンスをもつティールジョーンズグループによる皆伐を見据えた反対抗議運動が開始。抗議者が、森林伐採のための林道を封鎖したため裁判となり、結局は抗議封鎖に対し、営業妨害を理由に、差し止め命令がでてしまったのです。

一方、悲しいことに、ウィルダネスコミッティー(Wilderness Committee)という環境保護団体によると、政府の地図データ(Remaining Old-Growth Forest and Approved Logging in BC)の変化から、上記報告書が出る直前の12か月と、出た直後の12か月を比べると、原生林の材木切り出し量が43%も上昇したとか(New mapping shows huge increase in old-growth logging in year after Old-growth Strategic Review)。原生林は守られるどころか、間もなく姿を消そうとしているのです!

これまで、ヘリコプターを使って、伐れるところはすべて伐ってきて、通常であれば採算の合わないような、アクセスの難しい、山奥の深い森でまで伐らざるを得ない状況になってきた今だからこそ、巨木を伐って、効率よく生産力を増やしていこうというわけ。

製材・山林事業会社の目から見れば、オールド・グロース・フォレスト(old growth forest 原生林/老齢林)は宝の山(文字通り)。二次林から採った材木とは違い、年輪数の密度が高く、まっすぐで節が少ない材木は、世界にまれを見ない、”もっとも儲けやすい”材木なのです。

ブリティッシュ・コロンビア州政府の4月に出た予算では、林業関連の収入が11億カナダドル(大まかにいって1千億円)という、前年度と比べてもかなりの上昇。森林火災、コロナ後で経済的に困難が続いている今、BC州政府にとっては、価格暴騰中の材木を伐り出すインセンティブ(=利益)が、ありすぎなのです。

前回の選挙で原生林の保全を約束して当選し、選挙後にがらりと意見を変えて、原生林の皆伐を推進しているブリティッシュコロンビア州の州首相、ジョン・ホーガン氏に対し、「”美しい”ブリティッシュ・コロンビア州ですって? ホーガン氏、(約束を守って)原生林を守ってください」というメッセージをビルボードにしたもの(Ancient Forest AllianceのFBページより)

普段はあまり反対運動などに参加してこなかった層も、ソーシャルメディアや大都市での抗議運動など、できるところで反対の声をあげているのが特徴の、今回のフェアリークリーク皆伐問題。ビクトリアからは、シニア(年配)75人のグループが、現地に赴いて抗議運動に参加しました(Scores of Victoria seniors join old-growth logging protest at Fairy Creek)。

フェアリークリークでの皆伐反対問題の成り行きは、今後のカナダの環境保護運動の運命を左右する分岐点ともいえるのではないかと思います。

2.もともと森を所有していた、先住民(ファースト・ネイション)の意見は?

残念ながら、みんながみんな皆伐に反対というわけではない?

ちまたで聞いたことのある意見には、「ファースト・ネイションの人達は、伐採に賛成なんでしょう?勝手に後から来た白人たちが反対するのは、余計なお世話なのでは?」というようなコメント。

CBCなどのメディアによると、同じ先住民の中でもフェアリークリークでの皆伐に対し、意見が分かれているといいます。自分たちのテリトリーの中でのことだから、そっとしておいて欲しいという意見が発表された一方で、パチダットテリトリーの年長者であるビル・ジョーンズさんは、残り少ない原生林を守るため、できるだけ多くの人達に抗議運動に参加をして欲しいと言っています(ELDER BILL JONES CORRECTS CLAIMS BEING MADE AS HEREDITARY DECISION MAKERS)。

自然を愛するのにもかかわらず、”反対運動に反対する”ネイティブの人々。それには、事情があります。

ブリティッシュ・コロンビア州政府が、フェアリークリーク地域を含むティールシーダー社(ティールジョーンズグループの関連会社)に600平方キロメートルの保有権での伐採と、伐採のための道路建設許可などを与える以前の2017年、ファーストネイションの酋長たちは経済的な理由から、伐採に関わる利益を分かち合い、州政府が認めた伐採に対し、邪魔をしないという約束をしてしまっていたのです。

だから、原生林保全のために戦う市民団体のひとつで、今回の抗議運動の中心でもあるレインフォレスト・フライング・スクァッド(Rainforest Flyng Squad)は、政府の補助金を(業界などの間違ったところに配るのではなく)ファーストネイションの人々への経済的な支援として使い、原生林伐採に頼らない長期的な代替案を提案することが必要だと訴えています。

3.私たちにできること

  • 材木輸入国の日本人として、カナダ政府/ブリティッシュ・コロンビア州政府に質問しよう

    7割近くが森にもかかわらず、十分な手入れや間伐がされていない日本の森。国内の林業が苦しみ、木材自給率もまだまだなのは、安価な輸入木材によるものです(今では、国内の林業の問題は、一概に安価な輸入材のせいとは言えないようです。下記青字は、筆者、2021年6月5日の注)。

    日本の林業の問題点は、安い木材が入ってくるからというよりは、地形の問題、森林保有者の規模の小ささ、収穫や流通のシステムの問題、労働力不足と高齢化、コストパフォーマンスの悪さなど、日本特有の問題点があげられそうです(参考:民間企業から見た日本森林・林業の現状と課題について 2020年05月25日、住友林業株式会社資源環境事業本部 片岡 明人氏)。

    また、世界の木材市場の動向と展望:COFI と日本ツーバイフォー建築協会による合同バーチャルシンポジウム(日本代表、ショーン ローラー COFI / カナダウッドジャパン)によると、

    ー2020 年のヨーロッパの針葉樹製材の日本への輸出量は、減少。針葉樹製材輸出業者が北米への輸出に重点を置き、日本への在来軸組向け輸出を縮小する傾向
    ー2020 年のロシアの丸太と製材の日本への輸出量は、それぞれ 54.9%と 16.8%減少
    ー米国から日本への木材輸出量は 21.4%減少

    一方、
    ー日本の製材の年間輸出量は、2016 年の 8 万 7,000m3 から、2020 年には 17 万 3,000m3 に増加(日本国内の伐採量が増えたからといって、かならずしも国内で使える製材の量が増加するわけではない)

    ーSPF(北米産の針葉樹からきりだされた木材で、 スプルース(トウヒ)、パイン(松)ファー、(もみの木)の頭文字をとった)材の場合、Jグレードはカナダの工場で生産される製材の最高位のグレードであり、北米市場に比べて余分にかかる製造・輸送のコストをカバーするために、長きにわたあげられそうです。せされてきた。しかし、2020 年夏以降、日本市場の J グレードの SPF 材の価格は、一貫して北米の No.2&ベターの価格を下回っており、カナダの輸出業者は日本市場に対する長期的なコミットメントを維持しているものの、米国をはじめとする世界市場との価格のギャップの拡大が、J グレードの日本への輸出を制限する要因となる可能性あり(要するに、もっと払わないんだったら、もう輸出してあげないということ)

    カナダ産の丸太、輸入できず 初のTPP不履行か(日経新聞、2020年7月15日)と
    Canada risks trade spat with Japan over restrictions on log exports (The Globe and Mail) を読むと、日本は丸太をカナダから輸入して、国内で加工し、国内の雇用を増やしたい。一方カナダでも、丸太を輸出するのではなく、カナダ国内で加工することで、国内の雇用を増やしたい。でももし、日本がカナダの木材に対し、いい値段を払ってくれるのだったら、カナダ国内の雇用を減らしてでも、輸出してもいいと思っているが、日本はそこまでの値段は払いたくないし、というような葛藤が。・・・

    実際に、カナダの原生林からの木材が、どれだけ日本に輸出されているかは定かではありません(情報を知っている方がいたら、是非教えてください!)。カナダから日本への木材輸出量は以前と比べて減ったものの、2020年の日本の製材品輸入の最大相手国はカナダで、輸入量全体の23.5%を占めています。

    一方、日本では、カナダ西海岸沿岸からの木材すべてが”持続可能な森林管理”によってのみ伐り出されたものであるというイメージが売られているのは確か(カナダブリティッシュ・コロンビア州ー持続可能な林業ブリティッシュ・コロンビアの投資と貿易ー商品とサービスー林業)で、現実にはそのイメージとは反対の、原生林皆伐許可を続けるブリティッシュ・コロンビア州政府。

    カナダ/ブリティッシュ・コロンビア政府に質問を書きましょう!下記のアドレスは日本語可です。

    在日カナダ大使館 商務部
    ブリティッシュ・コロンビア州ではなく、カナダ政府ですが、各種産出物や製品の供給源についての最新情報を日本側に提供する役割を担っているので、「カナダの原生林が伐られていると聞いたのですが、反対意思を示すため、消費者として、どんな商品を避ければいいか教えてください」など、どんどん質問してみましょう!
    jpn.commerce@international.gc.ca

    在日のブリティッシュ・コロンビア州事務所に対しても、「ブリティッシュ・コロンビア州の原生林が伐られていると聞いたのですが、反対意思を示すため、消費者として、日本でどんな商品を避ければいいか教えてください」など、質問してみましょう。

    在日カナダブリティッシュ・コロンビア州 政府事務所
    japan@britishcolumbia.ca


    同様に、自分が家を建てる場合など、材木がどこからきているか、または、工務店や建築・土木関係に知っている人がいたら、どんどん質問してみましょう。

    ティールジョーンズ(英語)
    残念ながら、上リンクのウェブサイトを見てみると、サスティナビリティ(持続可能)については大きく宣伝されていますが、問い合わせフォームをクリックすると、エラーメッセージが。・・・問い合わせ先が見つかり次第、掲載します。

私も、知人が各地で抗議運動に参加するのをサポートしたり、許された場所での林道封鎖によって抗議運動を続けるボランティアの人たちに、定期的に食べ物やお金を寄付するなど、できることから始めています!一緒に頑張りましょう!

参考記事

・エイシェントフォレストアライアンスのフェアリークリークの写真メディアリリース

INTERVIEW: Tzeporah Berman at River HQ (Editors, Ricochet Media)

B.C. old-growth data ‘misleading’ public on remaining ancient forest: independent report (Narwhal)

Emotions erupt between police and protesters at old-growth anti-logging blockade (Castanet News)

The divisive fight over Vancouver Island’s old-growth trees (CBC News)

Ben Barclay: Will Fairy Creek become a turning point in human history? (Straight)

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Three Days in the Theatre of Fairy Creek, by Arno Kopecky, June 1, 2021 (The Tyee)

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2 コメント

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YOSHIMI 2021-07-25 - 9:40 am

こんにちは。日本のTHE BIG ISSUE という雑誌に先住民の土地で最後の原生林伐採という記事があり報道がないか検索したことからこちらにたどり着きました。日本の報道がないことからこのブログを書いたということからもとてもよくわかりました。
その雑誌にはもはや逮捕は270人を数えた見出しになっています。そして記事元はカナダのストリートペーパーメガフォン誌だということです。
英語なんてできないのですがご紹介のインスタグラムの写真などから伝わるものがあり、どうして自然や歴史に人は畏敬の念を抱いた行動をとらずこういったことが世界中で抗議活動にも反し強行されるのかと思いました。
おかげさまで署名などもすませおっしゃるように寄付にも参加しようと思います。
この記事に感動し、思わずコメントをしてしまいました。貴重な情報をありがとうございました。

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Mariko Benson
Mariko Benson 2021-10-17 - 3:51 am

ご一読ありがとうございます。残念ながら、本当にたくさんの人々の抗議にもかかわらず、警察による強行は続いています。逮捕数は、2021年9月14日の時点で、1000人を超えてしまいました。私の住むペンダー島の住民達も、反対運動に参加して何人かが逮捕されており、戦いは今でも続いています。おっしゃる通り、私たちはできることからやってやっていくしかなさそうです。

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